2013年1月30日水曜日

書のプロということ1

――先生は独学でプロの書道家になったとのことでしたが、普通は師匠の下で修業し、書道家になると思います。先生はどのようにしてプロになったのでしょうか?

何をもってプロとするかにもよるけれども、「字を書いてお金を貰う」のがプロということだと思います。そもそも字を書いてお金をもらうというのは、大変なことです。一般に書をやる人は、先生への月謝とか、逆に金を払って書いているわけだから(笑)。字が上手というのは、そういった挑戦を恐れないでやってきたということではないでしょうか。

――クライアントに認められるものを書くということですか?

そうですね。相手に評価されるものを書かないと、次から注文は来ません。字を書く場合は看板などに用いられることが多いけれども、それを依頼してきた相手はどういうビジネスを行っているのか、その字に相応しい書は何か、ということを判断して最適なものを出さないといけません。




神林氏の最近の制作事例(右)。老舗高級鰻料理店の看板。
以前からあった看板(左)と併用するための「創業明治五年」
という看板を依頼された。



制作した看板の拡大写真。
左の看板に合った書風を模索し、
6案提出したという。



――評価される字というのはどうやって書くのですか?

自分で勉強したり、古典の字を調べたりして字を書きます。そこで重要なのは、複数の字(の案)を出すということ。一般の書家は、「この字がいいからこれを使いなさい」と、「素人には判断できない」という姿勢で字を出しているように思います。複数の字を出して相手に選んでもらう、ということをやらない書家がほとんどです。

――一般の書家は複数の字(の案)を書かないことが多いのですか。

『書道年鑑』に書家の揮毫料が掲載されていますが、看板一つ分で30万円くらいの人が多い。そういう方は、相手にいくつも出さないようです。お弟子さんが依頼者との間に入ってたりするから、たくさん書くのは権威にも関わる。そういう話をよく耳にします。

ある蕎麦屋が日展に出している先生に頼んだら、やはり30万円だった。でもその字は、お客さんに読んでもらえない(読めない)字だった。だから使うわけにいかず、捨てるわけにもいかず、困ってしまったという話があります(笑)。

また、ある寿司屋が書家にお品書きを頼みに行ったら「俺を誰だと思っている。そんなものできるか」と断られたと言う話も聞いたことがあります。

――では、上手い字を書く為にはどうすればいいのでしょうか。

逃げないで大勢の人にお見せしてお金をもらいなさい、と。そうすれば上手くなる。自分より下手な人に教えるだけだったり、中国の古典の字ばかりまねするのではなく、一般の人を相手に字を書いて、お金をもらうことが大事。でも、それが怖いから出来ないという人も多いかもしれません。

気軽に、どんどん一般の人のニーズに応じる、と言う先生はあまりいないかもしれません。それは実用のための書に関してのことですが。

私が書道のプロとして飯が喰えるようになったのは、目の肥えている人に対して、「相手が何を求めているのか」と一生懸命考えて字を書いて採用していただく、ということを積み重ねてきたことが大事だったんじゃないのか、と思います。

相手がどういう字を要求しているのか、どういうセンスを持っているのか、どういう考えを持っているのかを見定めて書かないといけません。字を書くということは、いわば書家と依頼主のコラボレーションみたいなものなんだよね。

だから、一度書いたものでも必要があれば修正をします。「あ、こういうイメージのものを要求していたんだな」と思って修正して、そして採用してもらえる。書家が「これがいい」として出すのは違う。字というのはもっともっと普遍的なものだと思う。そういうのがあってニーズに応えるべく努力したということが、私がプロと言って頂ける理由なのだと思います。

依頼主が求めているものを出さないと行けない。それが出来るのがプロ。

――そうなるとデザイナーの仕事と似ていますね。

お客さんの目的に合致するものを出す、という。お客さんの目的とずれたものを出すと、売り上げが出なかったりとか問題が起こりますからね。

依頼主は、商売を社会において真剣勝負でやってきている人が多いから、ある意味鋭い感覚を持っている人が多い。書家みたいな純粋に書(芸術)で生きている人間とは違う感性があると思います。


プロになるという話に戻ると、商売でも資格でも、本当にやる気になって徹底的に勉強すれば、1年やれば身に付くと思う。まして3年もやれば十分プロになれることは間違いない。もちろん、いわゆる背水の陣みたいに張りつめた気持ちで取り組まないとダメ。何をしていても自分がやることについて、絶えずアンテナを張っておいて一年やればまずプロになれる。間違いなくそう言えます。





(聞き手/編集:加納佑輔|株式会社ソウサス意匠部)





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